Bodoniとは
Bodoniは、18世紀末のイタリア・パルマで活字彫刻師ジャンバッティスタ・ボドーニが磨き上げたセリフ体です。垂直な軸、太い縦画と髪のように細い横画・セリフという極端なコントラストを特徴とし、現在の分類でいう「モダン(ディドーヌ)」様式の代表格として位置づけられています。フランスのFirmin Didotが同時期に切り拓いた方向性と並んで語られることが多く、ボドーニ自身が没した後の1818年に妻マルゲリータが刊行した活字見本帳『Manuale Tipografico』は、彼の仕事を最も網羅的に伝える資料として現在も参照され続けています。
誕生の背景
ボドーニは1740年、北イタリアのサルッツォに生まれました。1758年、ローマの布教聖省印刷局(Propaganda Fide)に見習いとして入り、活字の彫刻と印刷の技術を学びます。1766年にはロンドンへ移る計画もありましたが、熱病のため断念。その後、パルマ公フェルディナンド・ディ・ボルボーネの招きを受け、1768年にパルマへ移住しました。以降、彼は生涯をこの地で過ごし、公爵の王立印刷所(Stamperia Reale)の設立と運営を任されることになります。パルマの公式博物館複合施設Complesso Monumentale della Pilottaは、この印刷所を通じてボドーニが精緻な印刷物によってヨーロッパ中にその名を知られるようになったと伝えています。
ボドーニの活字は、彼一代の仕事の中でも変化を重ね、様式が一つに固定されていたわけではありません。そのなかで、フランスのFirmin Didotが切り拓いていた方向性——太い縦画と極限まで細くしたヘアラインセリフの対比——に着想を得ながら、独自の様式を確立していきます。タイプファウンドリProduction Typeの記事は、ボドーニが1798年頃にこの洗練にたどり着いたと伝えています。どちらが様式的に先行したかについて明確な優先順位を示す資料は見当たりませんが、フランスのディドー家とイタリアのボドーニが、ほぼ同じ時代に、互いに刺激を受け合いながら「モダン」という同じ到達点へ向かったという構図は、多くの解説が共有するところです。
設計の意図
ボドーニ自身が語ったとされる活字の美意識は、様式の均一性・精密さと明快さ・良い趣味・魅力という4つの原則にまとめられます。Production Typeの記事はこれを彼の設計哲学として紹介していますが、これは英語による要約であり、ボドーニ自身のイタリア語による原文がそのまま示されているわけではありません。
この美意識が最も凝縮された形で世に示されたのが、死後刊行の『Manuale Tipografico』(1818年)です。プリンストン大学図書館のグラフィックアーツ部門は、この見本帳がラテン文字・ギリシャ文字・ヘブライ文字・ロシア文字など多言語にわたる活字書体の見本を収め、約290部のみが刷られたと伝えています。活字史家Daniel Berkeley Updikeはこれを「an imposing tour de force(堂々たる離れ業)」と評しました。ボドーニ本人はこの完成を見ることなく世を去り、妻マルゲリータが刊行を引き継いだという経緯そのものが、この本を単なる商品見本帳ではなく、一人の彫刻師の生涯の仕事の記念碑にしています。
どこで使われているか
Bodoniおよび同じ様式に属するDidotは、しばしば「ファッション誌の書体」として語られます。ただし、この結びつきの具体的な中身には注意が必要です。タイポグラフィ専門メディアEye Magazineの記事「Through thick and thin: fashion and type」は、Vogue誌が1955年以降、大文字のディドーヌ書体によるバナー見出しを定着させていったという趣旨を述べています。ただし同記事も、そこで使われた書体を「ディドーヌ様式」と呼ぶにとどまり、具体的な書体名までは特定していません。ファッション誌での採用として書体名まで挙げられているのは、アートディレクターAlexey BrodovitchがHarper's Bazaar誌で用いたDidotのほうです。Vogue誌のマストヘッドがBodoniだとする記述もウェブ上には広く見られますが、発行元Condé Nast社による公式の裏付けは見当たりません。「Bodoniがファッション誌のマストヘッドに公式採用されている」とまでは言えない、と押さえておくのが安全です。確かに言えるのは、Bodoniが属する「モダン/ディドーヌ」という様式全体が、太細のコントラストゆえに高級感・洗練の記号として繰り返し参照されてきたということです。
より具体的に確認できる使用例としては、第三者のキュレーションサイトFonts In Useが、Bauer Bodoniの使用例として、Joan Didion著『Play It as It Lays』(Bantam版、1971年)やGallimard社の叢書「Bibliothèque de la Pléiade」といった書籍の組版、「Esquire」誌1966年10月号、映画『The Age of Innocence』(1993年)のタイトルシークエンスなどを挙げています。これらはあくまで収集された事例であり、各媒体側の公式なブランド規定として確認されたものではありません。

