Futuraとは
Futura(フツラ)は、1927年にドイツ・フランクフルトのバウアー活字鋳造所が発表したサンセリフ体(うろこのない書体)です。デザインはPaul Renner(パウル・レナー)。円・正方形・三角形という基本図形をそのまま骨格に写し取った、幾何学的サンセリフの代表格として知られています。発表から一世紀近くを経たいまも、Monotypeのもとで大規模なファミリーとして展開されています。
誕生の背景
Paul Rennerが後にFuturaとなる文字のスケッチを始めたのは1924年ごろ。3年をかけて1927年に発表しました。この書体は「新フランクフルト(Neues Frankfurt)」という都市開発・住宅政策プロジェクトへの貢献として位置づけられ、円・三角形・正方形に基づく字形は同時代のバウハウスの造形思潮と精神的に近いものでした。もっとも、Renner自身はバウハウスに正式には所属せず、モダンな書体は過去の再興ではなくモダンな模範を表現すべきだという独自の考えを持っていたとされています。
開発には経営上の動機もありました。競合のLudwig & Mayer社による先行的な幾何学的サンセリフ「Erbar」への対抗です。実現の過程では技術面のHeinrich Jostと社主Georg Hartmannの役割が大きかったとされ、発売時のキャッチコピーは「我々の時代の書体」でした。
Futuraの巡り合わせは政治とも無縁ではいられませんでした。1930年代のナチス政権下ではモダニズム的なローマ字体は敬遠されていましたが、1941年、政権がブラックレター体(伝統的なドイツ文字)を「ユダヤ的起源を持つ」として否定して以後、Futuraを含むローマ字体が標準として扱われるようになったとされています。商業的成功を受け類似の幾何学的サンセリフが相次いで発売され、バウアー社は1927年開設のニューヨーク支社を足がかりに北米市場でも生き残ったと説明されています。
設計の意図
Futuraは、しばしば見出し・広告用の書体として語られます。しかし書体デザイナーKris Sowersby(Klim Type Foundry)は、Renner自身がこれをセリフのないローマン体として構想していたと指摘しています。オールドスタイル・ローマン体、ネオクラシカル・ローマン体に続く三番目の永続的なローマン体の型と位置づけ、長文の書籍組版にも耐えうる書体として設計していたというのです。字形は円・正方形・三角形に基づきつつローマ字の碑文体(インスクリプショナル・キャピタル)の歴史的構造を尊重したものだったとSowersbyは分析しています。
初期のブラス版・凹版印刷では、後年の版より幾何学性が厳格で、小文字のa・d・eの接合部も細く丸みが控えめだったといいます。Rennerは幾何学性をさらに徹底させた実験的な字形も設計していましたが、製造コストや商業的需要の低さから1930年以降の見本帳から姿を消したとされています。Sowersbyはさらに、デジタル化されたFuturaの多くが初期の厳格な字形でなく後年の柔らかい字形を基にしている点も指摘しています。いま私たちが目にするFuturaは、Rennerが最初に描いた幾何学そのものではないのかもしれません。
どこで使われているか
Futuraの実使用例について、機関や企業が公式資料(ブランドガイドライン、収蔵記録、プレスリリース等)で書体名を明かしたケースは見つかっていません。もっとも有名に語られているのが「アポロ11号の月面銘板にFuturaが使われた」という説です。People's Graphic Design Archive、Fonts In Use、TypeRoomなど複数のメディアで言及され、いずれもDouglas Thomasの著書『Never Use Futura』(2017年)を典拠としています。Futuraは1950年代の米空軍採用を経て1960年代にNASAの事実上の標準書体となり、1969年7月の月面着陸船の記念銘板にも使われたとされています。
ただし、銘板の文字がFuturaであることを裏づける確かな資料は見つかっていません。NASA公式ページに書体名への言及はなく、Fonts In Use編集者のNick Sherman自身が、資料の一部はFuturaではなくアメリカ製クローンのSpartanだと指摘しています。両書体はよく似ており、判別点は数字1の上部終端(Futuraは斜め、Spartanは垂直)とされ、誤認されやすいといいます。物語は広く流布していますが、銘板の書体をFuturaと断定できる確証はありません。

