DINとは
DIN(ディン)は、1936年にドイツ規格協会(DIN)が正式な工業規格として制定した書体「DIN 1451」を起源とする、サンセリフ体(うろこのない書体)です。もともとは道路標識や鉄道の文字表示のための規格でしたが、1995年、デザイナーAlbert-Jan Poolがこれを印刷・画面用のデザイン書体として再構築し、「FF DIN」として発表しました。装飾を排した機械的な字形と高いx-height(小文字の胴部分の高さ)を特徴とし、工業由来のグロテスク体として位置づけられています。
誕生の背景
起源は1905年に遡ります。プロイセン王国鉄道が、貨車の表示に使う標準化された文字様式「マスターテンプレートIV 44」を定めたことが始まりでした。1920年、ドイツ国内の鉄道各社がドイツ帝国鉄道に統合されると、この文字様式は事実上の国家標準として広く用いられるようになります。
ドイツ規格協会は1931年にこれを予備規格として発表し、1936年、若干の変更を加えたうえで正式な標準規格「DIN 1451」として制定しました。委員会を率いたのは、シーメンス社のエンジニアLudwig Goller。設計は、コンパスと定規だけで作図できる単純なグリッド構造に基づき、遠くからでも判読できる明快さを狙ったものでした。狭幅のEngschrift、もっとも一般的な標準幅のMittelschrift、広幅のBreitschrift(1980年代初頭以降はほぼ使われなくなった幅)という3種のバリエーションが用意されています。
1938年、DIN 1451はアウトバーン(高速道路)の標識システムでの使用が義務づけられ、以来ドイツの道路標識・地名表示の標準書体として定着しました。1956年から1995年にかけては西ドイツの自動車ナンバープレートにも採用されていましたが、1995年、偽造防止の観点からFE-Schriftへ置き換えられています。
この工業規格が「デザイン書体」として生まれ変わるきっかけは、1994年、サンフランシスコで開かれた国際タイポグラフィ協会(ATypI)の会議にありました。空港へ向かうタクシーの車中、当時新しいタイプファウンドリ「FontFont」を立ち上げたばかりのErik Spiekermannが、Albert-Jan Poolに、稼げるタイプデザインをしたいならOCRとDINを手がけるべきだと持ちかけた、とPool本人がインタビューで振り返っています。Poolは1995年に独立し、最初の5ウェイトをAchaz Reussと共同で設計したうえで、FontShop社のFontFontレーベルからFF DINを発表しました。
設計の意図
Poolはインタビューで、FF DINの設計にあたっては自分自身の署名的なスタイルを強く刻むのではなく、時代を経ても古びない書体になるよう個性を抑えることを心がけたと語っています。ITC Conduitのような大胆な解釈は避け、清潔で厳密でありながらも、ごく当たり前に見えるたたずまいを保つことを重視した、とされています。
出発点となったのは、元のDIN 1451(Mittelschrift/Engschrift)が持つ厳密で機械的な字形です。そこに、印刷やスクリーンでの使用に耐えられるようウェイト数を拡張し、イタリック体も真正のイタリックではなくoblique(直立体を単純に傾けた字形)として設計。さらにキリル文字・ギリシャ文字・中東欧言語などを含む拡張文字セットも加えられました。
もっとも、発表当初の市場の反応は鈍く、Pool自身の回想によれば、地位を確立するまでに約5年を要したといいます。コンデンス体・イタリック体を追加したことで、ようやく評価が定まったとされています。高いx-heightと装飾を排した無機質な外観は、道路標識・鉄道という工業的な出自を反映した特徴として位置づけられています。
どこで使われているか
公式に確認できる採用例は、まずドイツの道路標識・交通標識です。DIN 1451は1936年にドイツ工業規格として正式制定され、現在もドイツをはじめ複数の国の道路標識で採用される公式規格書体として機能しています(現行の規格文書はDIN 1451-2、1986年制定)。西ドイツの自動車ナンバープレートでも、1956年から1995年まで採用されていました。
これ以外の使用例としては、デザイン事例のキュレーションサイト「Fonts In Use」に、映画『The Irishman』のポスターやタイトル、ゲーム『The Last of Us』シリーズ、TVシリーズ『Escape at Dannemora』、CBS局のNFL中継のスコア表示、ゲーム『Half-Life』の公式サイトなど、135件のFF DIN使用事例が掲載されています。ただしこれはFonts In Use側が独自に集めた事例であり、制作者やブランド本人が公式に認めたものではありません。Adidas、ACLU(米国自由人権協会)、PNC Financial Servicesなどがブランドタイポグラフィに採用しているとの言及も複数のフォント紹介記事で見られますが、各社が公式のブランドガイドラインで明言したことは確認されていません。

