Times New Romanとは
Times New Romanは、1932年10月3日に英国の新聞The Times紙上で発表されたセリフ体(うろこのある書体)です。監修はMonotype社のStanley Morison、原図はThe Times広告部門のVictor Lardentが担当しました。以来90年以上、新聞・公文書・学術論文まで幅広く本文書体の標準として使われ続けています。Windows全バージョンへの標準搭載やAPA Styleでの承認書体指定など、パソコンを使う人なら一度は目にしたことがある書体でしょう。
誕生の背景
1929年から1930年にかけて、Morisonは The Times の印刷・組版が時代遅れであり、新聞としての品格を損なっていると批判しました。これを受けて1931年、The TimesはMorisonとMonotype社に新しい本文書体の制作を委託します。当時の既存書体は「Times Old Roman」と呼ばれており、新しい書体はこれと区別するために「Times New Roman」と名付けられました。
1932年10月3日、新書体はThe Times紙上で初めて公開され、話題を呼びました。発表から1年間はThe Times専有の書体として扱われ、1933年からMonotype社による商業販売が始まります。The Timesはその後40年にわたってオリジナル版を使い続け、1972年から2007年にかけては5回、書体バリエーションを切り替えていったとWikipediaは記載しています。
設計の意図
Morisonが目指したのは、1行・1ページに多くの文字を収める経済性(効率性)と、可読性の両立だったと説明されています。土台に選ばれたのはMonotype社のPlantin書体(Robert Granjon設計の古活字Gros Ciceroに由来する書体)でした。
Plantinとほぼ同じ寸法を保ちながら、ストローク(線)の太細のコントラストを強め、字形の曲線を洗練させたとされます。この結果、Baskervilleに代表される18世紀の「トランジショナル(過渡期)」書体と比較されるようになりました。Monotype公式資料では、PerpetuaやPlantinを用いた実験を踏まえ、オールドスタイル(ルネサンス期の活字)的な特徴を残しつつ可読性と省スペース性を両立させたと説明されています。
どこで使われているか
確認できる採用例として、まずThe Times紙が挙げられます。1932年の発表から約40年間、本文書体としてオリジナル版を使い続けました。
米国国務省でも、約20年間(2023年まで)公式文書の標準書体として採用されていました。2023年2月、当時のブリンケン国務長官はアクセシビリティ向上(低視力や失読症を持つ職員への配慮)を理由に14ポイントのCalibriへ切り替えます。ところが2025年12月、ルビオ国務長官は覚書に署名し、Times New Romanへの回帰を指示しました。理由として挙げたのは「フォーマルで専門的」であることでした。
学術分野ではAPA(米国心理学会)のAPA Style公式ガイド第7版が、12ポイントのTimes New Romanを承認済みフォントの一つとして明記しています。単一書体の義務付けではなく、Calibri・Arial・Georgiaなどと並ぶ選択肢の一つです。
もっとも広く行き渡っているのは、Microsoft Windowsでの標準搭載でしょう。Microsoft Learn公式資料によれば、Windows 3.1から最新のWindows 11まで、全てのバージョンに搭載され続けています。
Windows 3.1発売時のMicrosoftとMonotype社の提携の経緯は、元Microsoftタイポグラフィ担当者個人の発信で語られているのみで、公式な資料での裏付けは見当たらず、伝聞にとどまります。オーストラリア政府のロゴやブリタニカ百科事典での使用例も、Wikipediaの記載にとどまり、各団体が公式に認めたものではありません。

